思いもよらない鬼ごっこ
          〜789女子高生シリーズ

           *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
            789女子高生設定をお借りしました。
 


      




 二学期が始まって まだやっと1週間という頃合いの、とある女学園の昼休み。中庭でお友達とお弁当を食していらした、三木さんチの久蔵お嬢様だったのだが、毎年恒例となっている運びとかいうのへの参加へ、この彼女にしては随分とあからさまに“憂鬱なの”と沈んだお顔を見せておいで。

  箸が転げても可笑しい年頃といわれている筈の

 およそ十代の少女とは思えぬほど寡黙で寡欲で。冷静を通り越し、冷淡そうな無表情が常なほど、感情の起伏が滅多に見られぬ風変わりな人物ではあるが。忘れちゃいけない、彼女はただ その容姿の華麗さからだけで“紅バラ様”と下級生たちから慕われている訳じゃあない。けぶるような軽やかさ、エアリーなカールのかかる見事な金髪と、冴えた白さの際立つ瑞々しい肌。すべらかな額や頬に、肉薄だが強い意志の象られた口許は、高潔な女神を思わす禁忌的な美をたたえた顔容を作り出し。幼いころから親しんでいるバレエで鍛えた痩躯には、見目の可憐さを裏切ってそれはしたたかなバネをひそめつつ、だのに 所作のいちいちへ、繊細にして優雅な機能美を染ませており。

  そうまでずば抜けた色々を取り揃えた美少女の

 最も印象的なところというのが、双眸にすわるそれは鮮やかな紅色の瞳であり。あまりの神々しさに覗き込むのが憚られてか、そこまで気づいている者は少ないが、光の加減や当人の感情の変化により、深い紅に落ち着いていたり、紅蓮の炎思わす激しさに輝いたりと、表情以上の鮮やかさで、彼女の内面を写し出すところでもあって。それらが凛といや映える、毅然とした姿勢や透徹な佇まいから。果敢で苛烈な性格なんだろと誤解されがちだが、実は そうそう自分が自分がと前へ出てゆく性分じゃあないし。逆だというならと、冷淡そうに見えなくもないとされている鋭角的な風貌を大きく裏切って、実は実は…心優しく無垢で真っ直ぐな、他に類を見ないほど生粋の“ヲトメ”であり。殊に この頃は、幼いころからずっと傍らにいてくれた主治医のせんせえへ、ほのかな恋心を意識しだしたばかりな身。よって、

 「ただの“見合い”なのだしな。」

 何がそんなにも憂鬱なのかというお友達からの問いかけへ、ぽつりと零した一言が“これ”だったもんだから、

  ………………はぃい? ×2 と

 彼女と同様にお弁当をお膝に広げ、スズカケの木陰へ同座していたお友達二人が、その表情を微妙に凍らせてしまったのは言うまでもなくて。

 「……久蔵殿?」
 「?」

 にんじんの甘露煮を、やはり逆手に握ったフォークでぶっ刺して、もとえ…捕まえて。順手に持ち替え、ぱくりと食いつきつつの、目顔による“なぁに?”という問い返しの瞬きへ。あまりの頓着のなさに却って たじろぎつつも、

 「えとあの、お見合いって…言いましたか? 今。」

 七郎次の及び腰な訊き方へ、だが、彼女の側はというと、お茶を飲みますかと問われたようなお気楽さでこっくりと頷いて見せ。

 「19日はそれで潰れる。」
 「いやあの、そこを念押ししてほしいんじゃなくて。」

 そもそもそういう慶事へ“潰れる”なんて言いようをもってって良いんだろうかとか、常識クイズにでも答えているような感覚が白百合様の胸中をちらとよぎったのも、当事者である久蔵が…今はもう、至ってけろりとしているから。そんな軽い混乱に見舞われ出した七郎次に代わって、今度は自分がもうちょっと詳細を訊こうと構えたらしい平八だったが、

 「お見合いって言ったら…お見合いですよね?」

 どうやら ひなげしさんも、さして変わらぬ混乱ぶりなようであり。
(笑) さすがに 妙な二人だと思うのか、細い眉をかすかに寄せ始めた久蔵だったが、それでもこっくり頷くと、

 「うむ。
  結婚を前提にした縁をつなぐべく、
  妙齢の男女が立ち会い人を介して引き会わされる場のことだ。」

 「……そんな明解国語辞典みたいに。」

 一体 誰の話をしているもんだか。そりゃあしゃきしゃきと歯切れよくご説明くださった久蔵だったのへ、よろよろとよろけながらも 平八が“おいおい”と呆れ半分に窘めたところが、

 「テーブルマナーの方は心配要らぬ。今は手を抜いているだけだ。」
 「そうじゃなくて、あの……。」

 咬み合わない会話に焦れかけた平八へ、

 「俺が うんと頷かぬ限りは破談なのでな。」
 「あ…。」

 思わぬ間合いでほいと無造作に放り出された一言が、二人のお友達をも黙らせる。つまりは形式的な代物なのだと、彼女自身も判っておいでの“お見合い”であるらしく、

 「それが判っているだけに、無為なことだと。」

 そこで再び言葉を濁してしまい、手元のお弁当を見下ろす紅バラ様であり。つまり…久蔵は純粋に、そんな無為なことで貴重な休日を潰されるのは“憂鬱だなぁ”と感じただけならしい。

 「…そうなんだ。」
 「それは…大変だねぇ。」

 大人たちの都合優先でとんとん拍子に進められ、久蔵の意志に関わりなく結婚へまで運ばれてしまうような、俗に言う政略結婚系の“お見合い”ではないらしいと察し。こちらもやっと安心したればこそ、それぞれの肩を上下させての“ああ驚いた”と溜息をついた親友お二人だったのだけれども、

 “…でも。”
 “うん。ちょっと気になるよね。”

 肩先から胸元という首の周りをおおう、広い襟の濃紺に殊更よく映える。それは端正な白い横顔が、ほのかに憂いを帯びて見えたのは。赤い双眸が見下ろしたフォークの先に、彼女にはちょっと苦手な山芋の薄味煮物があったから…というだけじゃあないような気がして。寡黙な彼女の意を酌んでやるのも自分たちの使命と言わんばかり、こそそと囁き合う、白百合様とひなげしさんだったりするのであった。




      ◇◇


 家族で出掛ける旅行や盆暮れの一斉帰省とか、小さいうちは楽しみだったはずが、年齢が長じてくると、段々と親しいお友達と一緒に行動する方が楽しくなるため、もう一緒には行かないと言い出すのが思春期の始まりだというお説もあるほどで。ともすれば中学に上がるころ辺りから見られ始める、そんな“精神的自立”を引き合いに出すまでもなく、

  『どうして“その気”がないのに、
   そんな席へ引っ張り出されてるのかな、あの子。』

 そもそも久蔵の両親は、彼女が幼いころに忙しくて構ってやれなんだという負い目もあってか、それでも素直に真っ直ぐ育った娘の意思をまずはと尊重してやっており。無口で大人しい(?)一人娘に、家へまで連れて来るほどの親しいお友達がやっと出来たと、それはそれは喜んで全力で歓待してくださるその反面。華やかな美人でバレエの世界でも注目株な上、初等科から通っている有名な女学園でも人気者らしいという、申し分なく広告塔の役目を果たせよう、タレント性たっぷりな存在であるにも関わらず。家の事情だの大人の都合だのへ、久蔵を無闇に引っ張り出さないようにと心掛けているのが、七郎次らへもありありと伝わって来るほどだし、

 『そもそも、嫌なものへは、
  割とはっきり“厭だ、嫌いだ”と拒んじゃう子だよねぇ。』
 『というか、おもねるのが苦手というか。』

 表情の薄い、若しくは鉄面皮なところは確かに否めず、いつも一緒にいる七郎次や平八が人当たりの良いタイプだから余計に、笑顔の乏しいところが際立ってしまい、清冽な美貌とあいまって“クールビューティ”なぞと言われてもいる久蔵は。そんな評を集めているそれも由縁か、不快や不満へもある程度までは耐性がある方ではあるものの。相手があっての おもねるとか流すとかいうのは、相も変わらず ちと苦手。空気が読めないところは、ある意味“昔”のまんまであるようで。あまり我を張ると周囲の、それも大事な人が困るという理屈は、あれでも判っちゃあいるのだが、それでもやっぱり 厭なものは厭だからと。ついつい、甘えていい相手である七郎次や平八には本音のお顔を覗かせたのかも知れぬ。

 『それと、最近とみに目覚めたことがあっての、その反動で、
  よその男と逢ってる場合じゃないでしょっていう、
  そういう意識が 尖んがって来たのかもですよ?』

 絶妙な言い回しをした平八のご意見へ、それは深々と頷いた七郎次であり。そんな彼女らが、不憫なお友達の抱えた難儀を もちっと掘り下げたくてと、事情聴取の相手に選んだのが、

 「嫌がってた? それは初耳だ。」
 「……そうなんですか〜?」

 今日はバレエのレッスン日だからと、残暑厳しく、まだまだ木々の梢も濃緑のたわわな、午後の校庭の脇を巡る小径、足早に帰っていった久蔵を見送って。そのまんま、それぞれの部室とはまるきり別の方向、校内の一角へと足を向け。ちょっぴり消毒薬の匂いのする保健室で、七郎次と平八が二人そろって向かい合っているお人こそ。ここ数年、正確に言うと…高校に上がった久蔵の中で、前の“生”の記憶が蓋を開けてから。とみに“気になり度”が高まり中のお相手、彼女には主治医でもある、校医の榊 兵庫せんせいだったりし。冴えた美貌と裏腹、内面はどこかほよよんとしている久蔵を、どんな個性でも大事としつつも あんまり“普通一般”からは外れぬようにと見守って来た、なかなかの苦労人だそうだが、

 “ああ、やっぱりこの人に訊くんじゃなかったかなぁ。”

 確かに身近な人じゃああるが、そういやあと思い出したのが、七夕のころ、クリスマスにツリーにお願いを書いた短冊を下げる云々という話が出たおり、久蔵はこの主治医の先生の冗談を真に受けて、七夕でもないのに願いごとを書いたらしいという昔話をしてくれて。幼かった久蔵お嬢様の行動があまりに素直で一途だったため、今更 冗談だと言い出せず、最初の数年ほどは何とか頑張って願いとやらを叶えてやっていた兵庫せんせえだったらしかったのだが。そんな短冊を下げるのを、彼女がふっつり辞める切っ掛けとなったのが、

 『短冊へ、いいお婿さんがほしいと書いたからだ。』

 そればっかりは自分で努力して探しなさいと言われ、いい婿かどうかは俺が判定してやるから大丈夫だぞと付け足され。久蔵お嬢様としては、それ以上の欲しいものを思いつけなくなったので、短冊を下げることもなくなったそうであり。そんな逸話をご本人から聞かされたこちらの二人としましては、そうかそんなまで昔の幼いころから、このせんせえが好きな久蔵なのかと…それを悟ったのでもあって。だって言うのに、

 「そうか、そろそろお主らといる方が楽しい年頃か。」
 「…もしもーし。」

 感慨深くもしみじみと、随分と的外れなことを言い出すせんせえなのへ。これは完全に、親戚の幼い姪御の話をしている叔父さんって感じだよなと。困った方向に既にそのポジションを決めておいでの兵庫殿らしいこと、ひしひしと実感しちゃった七郎次らでもあったりし。

 「そんな恨めしそうな顔で見られてもなぁ。」

 さすがに…ぐぐっと眇められた目許や引きつった口許というお顔をして見せられては。お年頃の少女へ意に添わぬ“見合い”だなんてと、そんな無体を強いますかという、無言の抗議や非難だというのは判るらしく。知っていながら止めない無責任な大人という、手痛い認定をされたも同じな、恐ろしい眼差しの集中砲火を浴びせられ、白衣の下、ちょっぴり細身の肩をすくめた校医殿、

 「親御殿らも、特に押しつけちゃあいないと聞いているがの。
  それに、相手だって錚々たる坊っちゃんぞろいで、
  三木家のみならず、久蔵本人へもさほどに悪い話ではないのだよ?」

 一昨年のお相手は某有名ブライダルチェーンの総帥の御曹司で、ご自身もデザイナーをこなしておいでの、なかなかに紳士的で包容力もありそうな好青年だったし。昨年の相手は、外科医になる修行中という、俺もよく知る大病院の勉強家な嫡男だったし。今年の相手は、工学世界じゃあ名の知れた○○大学の院生で…と。そんな話まで把握しているほどのお付き合いなのに、何でまた肝心な久蔵の気持ちには気づいてませんかねぇと、七郎次が形のいい眉をますますと寄せている傍らから、

 「○○大学? そこの工学部なんですか?」

 平八がそんなお声を差し挟む。おややと意表を突かれた七郎次が見やったのと同時に、

 「ああ。何工学を専攻かまでは覚えとらんが。」

 兵庫殿からのお返事が続き。口数少ない不器用なお友達の身に降りかかってた、そんな子には振り払いにくい微妙な危難を、きっと見かねて抗議しに来たのだろう、心優しい彼女らを、切れ長の目許をふと和ませて見やったせんせえ。

 「三木家は、そう、
  草野さんチと違ってそれほどの歴史というか、
  昔から羽振りがよかったとか、格があった家柄ってんじゃあない。」

 そんな話を唐突に切り出して。いやいや、格式の話をしたいんじゃあなく…と、七郎次が反射的に何か言いかけたのを、判っているさと先んじて遮り。なので、家名がどうのこうのと口を出してくるよな、うるさい親戚筋というのはいないってことだと話を続け、

 「そういうところがな、縁を結ぶには面倒がなくていいと、
  勝手なことを思う連中が。
  手間暇惜しまず、努力を重ねてのし上がった優良企業であるという肩書と、
  潤沢な資産を保有する懐ろ具合とを狙って集まって来るらしくてな。」

 だがまあ、もはや三木の家の側とて、人脈のある人物や派閥をついつい求めたり頼ったする立場じゃあない。コンツェルンとしての地盤も固く、財力でも人脈でもむしろ頼られる側の、トップクラスの企業に上り詰めているので。何となれば、足元を見られる筋合いはないと、それこそ大上段から見下しも出来るだけの格を得ているのでな。

 「なので、久蔵には無理強いはさせとらんという話だし。」
 「あのですねぇ。」

 見合いの席を設けていること自体が、億劫で窮屈で不愉快なのだと、なんで気づかんかな、この…騒動が起きるたび自分だけは普通一般人ですと“常識人づら”している校医のせんせえはよと。ついつい、前世のおっさん世代の底力が滲んだ物言いが、ふつふつと喉奥から込み上げて来そうになった七郎次の。指の節が白く浮き上がるほど強く握られた拳を、横合いからそおと捕まえた平八が、小さくかぶりを振って見せ、

 「久蔵はね、断ることが前提の“お見合い”なんて不毛だからと、
  それで“もうやだなぁ”と思ってるんですよ?」

 どんなにしっかり者に見えたって、年頃なんだから感受性は豊かなそれで。誰かを拒絶するなんて行為がつらいと、憂鬱だなぁと苦痛を訴えてるってのにと、切々と訴えたつもりが、

 「昔は、一人でいたころが長かったからか、
  人知れず結婚願望が強くあった子だったのだが。
  そうか、そういうコンプレックスも もはや消えてしまったのか。」

 「………っ!」

 今度は平八のほうがぷっつんとキレたか。窓の外を遠い眸をして眺めやる誰か様の背中へ向けて、昔懐かし、側面ぐるりに亀の甲羅のような凹凸のある手榴弾を、頭上へ高々と振り上げたひなげしさんを、

 「ちょ…ヘイさん、どっからそんなものっ!」

 わたたと焦りつつも、威勢よく立ち上がりかけてた背中を目がけ、ぎゅむと抱きついて必死で引き留めた白百合さんだったりしたのは、冗談抜きにここだけの話である。
(う〜ん)




       ◇◇



 「お見合いが厭になったのは、
  好きな異性が出来たからだと、
  何でそこへ思考が向かいませんかね、あのお人は。」

 最後のほうでは完全に会話が成り立ってなかったなぁと、何とも残念な対談を振り返る七郎次へ、

 「鈍いところは、
  勘兵衛殿といい勝負なんじゃあありません?」

 いつぞや、せっかく贈り物にと焼いたマドレーヌを“父の日用か”なんて言った御仁を、彷彿とさせますよと。まだお怒りが燻ったままならしく、尖った語調での平八の言いようへ。今回ばかりは“いちいち引き合いに出すな”との反駁も出来ぬまま、七郎次としては“あははは”と乾いた笑い方をしたに留めるしかなかったり。

 「ほらほら、栗の甘露煮も乗ってる。ヘイさんお好きでしょ?」

 斜めに着地しちゃった残念な対話を終えて、ぶつぶつと不平が止まらぬままだった平八を宥めるにはと、七郎次が真っ先に思いついたのが“八百萬屋”のお三時限定メニューであり。大好きな五郎兵衛殿の手になる特製の甘味を食べれば、少しは落ち着くだろうよと。怒り心頭状態のひなげしさんを、半ば引きずるようにして、校門からそう遠くもないレトロな店舗兼住居へまで連れ帰ってやり。今日のはぎゅうひと白玉、栗の甘露煮がトッピングされた宇治金時フラッペと、こし餡がさらりとろける軽やかな口どけが評判の、淡雪もなかのセットだったの、至急 平八のお部屋までと出前を頼んだその末、やっとの何とか落ち着いたところであったりし。彼女にとっては自宅である“八百萬屋”に戻ったことで少しは落ち着いた平八も、そしてそんな彼女をとりあえずは宥めた七郎次の側にしても、そのヲトメ心で思うところにそうそう差はない模様であり。曰く、

  ―― 見合いの席に向かうのが憂鬱だと久蔵が思うのは、
     兵庫せんせえへの恋心が育っているからに違いないと。

 久蔵に自覚があるかどうかはともかく…なんて、一番肝心な部分の“前提”が随分と微妙な推論ではあるものの。(まったくだ・笑) そうに間違いないと握りこぶしを固めるヲトメらに、一体誰が水を差すよなことを言えましょうか。とはいえ、

 「そうなのよねぇ。とはいえ、なのよねぇ。」
 「こればっかりは、どこぞのB級ドラマみたいに、
  アタシらが乗り込んでって ぶっ壊すって訳にもいきませんものね。」

 いやいや強行するから考えろと言われれば、ざっと5つ6つは策も浮かぶことではあるが。
(こらこら) 他でもない久蔵ご当人が、憂鬱ながらも我慢すると決めておいでのようなのだし。そこへの余計な横槍は、彼女やご家族の面目を潰すその上、その健気な決意をも踏みつぶすことに成りかねず。いくらじゃじゃ馬さんたちだとはいえ、そこへの理解はさすがにあるので、こたびばかりは打つ手なしの傍観の構えでいるしかないと来て。

 「本人からは言いにくいこと、でもでも憂鬱そうだったって、
  私たちが兵庫さんへ何とはなく伝えたことで。
  来年からは、無理に話を取りつけられても断ろうという方向へ、
  ご両親も態度をきっぱりと変えて下さるかも知れないのが、
  唯一の頼みの綱ってところでしょうか。」

 何たって 16、17といや、一番瑞々しくも多感なお年頃なのだ。そんなややこしい大人の都合なんて知るものかと、今のうちに蹴っておかぬと、先でも雁字搦めにされかねぬ…とは、

 「サナエ叔母様から聞いた、
  家名じゃ何だというしがらみに、
  哀しいかな縁のありそな境遇の婦女子の、ブレないための心得です。」

 「おおう。」

 そんなところで拳を握ってしまうシチさんもシチさんなら。そーか、そういうところはいまだに前時代的な“ミラクルジャパン”なのねと。そも“ミラクルジャパン”って何ぞやとお訊きしたいような、いやいや辞めといた方がいいような、そんな下心、もとえ予備知識をお持ちらしいヘイさんだと来て。


   今回こそは、
   槍や棒持って大暴れという荒くたい展開には、
   なりそもないのでホッとしております、はい。






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  *兵庫さんもこのお話の中では微妙に世代がズレてるお人ですんで、
   シチさんたちにすりゃあ、焦れったい限りなんでしょうねぇ。
   そして、もーりんもまた、
   ヒョウキュウものを扱うの初めてなので、
   何だかドキドキしておりますvv


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